この街は、建物が高い。
昔お父さんに連れて行ってもらったリーネ・ヴェ・キーネの街も建物が立派だったけど、この街は建物で空が埋まっている。
空が見えなくてこの人たちは寂しくないのかな?
dyrile'd petexal es larpi'd dosnudal. wionosti, dejixesti lexj xelirj mi.
そんなことを考えていると、昔聞いた古い詩を思い出していた。神族の一人が罪を犯して地に落とされ、空を見て嘆く古い物語の一シーン。元はどこかの別の民族の神話だったものがリパラオネ教に取り込まれたものらしいけど、元の話がどんなだったかは知らない。確か最後には罪を償ってトニーリッソに戻れたはずだけど――
「aj!」「いてっ!」
もの思いにふけりながら歩いていたら人にぶつかってしまった。
「nac――gomennacai!」「いえ、すいません」
とっさにリパライン語で謝ってしまいそうになりながら、翠に教えてもらった謝罪の日本語を口に出して表情で申し訳なさを伝えようとする。ぶつかった相手は何事かつぶやきながら特に気を悪くした様子もなく歩いていってしまった。
***
「シャリヤ、俺と一緒にこの世界に来てもう2か月が経とうとしているし、一人で外に出ても大丈夫だろうとは思う。でももし何かあったら、俺に電話してくれ。それから――」
翠がとても心配そうな顔をしつつそんなことを言って私に梅田について教えてくれたのが昨日の夜のこと。jodobaxiというお店に行くといろんなものが見られるとか、umedaという駅が近所にたくさんあって絶対迷子になるとかいっていたけれど、私だってこの世界の文字はだんだん読めるようになってきた。hilaganaとkatakanaというタカン文字に似た文字は読み書きとも問題なく出来るようになったし、kanXiという燐帝字母みたいな文字もいくつかは読めるようになった。そのumedaという駅の字も教えてもらったし、きっと大丈夫よ。
さて、orcakaという駅で降りたはいいが、ここからどう動けばいいのだろう。とりあえず翠はプラットフォームから地下に降りて改札を目指せと言っていたっけ。
……どこから降りればいいの?
とりあえず周りの人たちの波に乗って動いてみる。昼間なのになんでこんなに人が多いんだろう。あ、動く階段がある、いやこれは上りだった。……見つけた、これか。
何列にも並んだ機械に切符を通して出してもらい、左へ。扉をくぐって建物から出たら右に曲がって突き当り。本屋の手前の階段を上がり、正面の橋へ。渡ったら右に曲がって進み、建物に入る。ここで動く階段が4列正面に見えたら正解と翠は言っていた。さて、正解だろうか……!
階段が確かに4つ動いている。どうやら合っていたらしいということに私はまずホッとした。
「翠ってば、どう?私だって教えてもらえば一人でも知らない町は歩けるのよ!」
一人でそんな風に勝ち誇ってはみたが、やっぱり翠がいてくれたらもっと楽しかったのかなという思いがふと頭を過った。いけない、今回一人で歩くと主張したのは私なのだ、帰るところまで一人でたどり着かないと。
せっかくだから翠がオススメしてくれた小物屋さんに行ってみよう、翠が持たせてくれたお金で二人で使えるようなものが見つかるかもしれない。
***
「ers vynyt dosyto!」
お店は教えてもらったところにはなかったけれど、紙に店の名前を書いて「doko decka?」と近くの店員さんに質問したら教えてくれた。私がこの国の人でないのが話し方と見た目で分かったらしく、メモに私が知るどの文字でもないような走り書きを添えてくれた。帰ったら翠に後で聞いてみよう、もしかしてこの世界では一般的な文字なのだろうか。そんなことを考えて、また新しい文字に出会えるのかと思ってわくわくしながら、私は次の目的地へと向かっていた。
終
この記事は、悠里・大宇宙界隈 Advent Calendar 2020 20日目の記事です。